サッカーコラム~2013年5月:幸せなロスタイム
小野が 高く上がったクロスボールを
まるでクライフターンのように足の背後でコントロールし、
狙い澄ましたグラウンダーのシュートでアシストし、
中盤でこぼれたボールをダイレクトで
まるで緩いロングパスを打つかのごとく
キーパーの頭越しにループシュートを決めた日、
フェイエでトマソン、ファンホーイドンク、
若き日のVペルシと肩を並べ
UEFA杯を掲げた あの日、
まさか、ほんの10年後に「あなたは豪州でサッカーをやってる」と言えば
笑い話になっただろう。
北の果て、スコットランドで
マンチェスターU相手に2戦連続でFKを決め、
グラスゴーの地で宿敵レンジャーズを鎮める
形容しようのない左足を見せつけ、
セルティックで年間MVPを掲げ、伝説の一部となった中村が
2010年W杯ではほとんど出番もなく、そのまま代表から離れ
横浜FMでJリーグの優勝争いを心から楽しんでると言ったら
これもきっと一笑されただろう。
それほどまでに当時、彼らが海外で達成した偉業はすごかった。
はたして彼らは「都落ち」という名の凋落を味わってるのだろうか?
否。
きっと
中村も 小野も こういうだろう。
「楽しくて仕方がない」と。
代表というのがある種 ぎりぎりの戦い
たとえるなら 真剣で切りあうような試合だとすれば
Jリーグや豪州は木刀をもって、技の魅せあいをする道場のようなものだ。
そこには、緊張感よりも相手を称える精神があり、
技を競いあう、純粋なサッカーとしての原点がある。
こんなこともできる、あんなこともできる。
彼らが30歳を超え、なおその技術の高さを見せつけるとき、
僕らは幸せなロスタイムの中にいることを知る。
そしてそんな幸せな「老後」を手にできる選手は非常に少ない。
煙たがられ、レベルの低下を疎まれ
追いやられるように引退するものも少なくない。
僕らは、欧州で通じなくなり、代表に縁がなくなった彼らを
「残念だ」と思うまえに
スタジアムで、テレビで、彼らの実に楽しそうなサッカーを一度見るべきだ。
そして、Jリーグでも次世代の期待といわれる若手を
軽々とあしらう中村を見て
サッカーとはこんなにも希望にあふれてることを知る。
豪州のサッカーを盛り上げできたばかりのチームで
奇跡のような優勝争いに引っ張り、
オーストラリア中を熱狂させる小野を見て、
サッカーに不可能はないことを知る。
できることは限られてる。
だけど、今いる場所で、何をして、何を見て、何を為すか、
穏やかなロスタイムを手に入れた彼らはもしかすると
サッカーを始めたころのような幸せの中にいるのかもしれない。
そしてそんな彼らを見ることが出来る僕らも幸せの一部だ。

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※ この記事は、2013年5月28日にアメブロ「虚言」で書いたものを移しました。
